旅立ち

本日、大事なかたがお二人旅立たれました。
心からご冥福をお祈り致します。

お一人は施設オープン当初より入居していただいたかたです。
まだ海のものとも山のものとも分からない当施設を気に入って頂き、オープン3日目に入居してくださいました。

病院でなにもすることはないといわれ、看取りの場として当施設を選んでいただきました。

しかし、お話を伺うと、本当はまた一緒にコーヒーが飲みたい。それは叶わなくても、ご主人としてもう一度話をしたいとの奥様の想いを感じました。

目はうつろで、振顫がつよく、指示はまったく通らない状況でしたが、これまでの経過を伺うと、やりようによっては改善する余地は十分と判断しました。

これまで在宅医療の主治医として関わっていたわけではなく、病院主治医から、もう何もすることはないといわれていたのに、これこれをやってみましょうと言われるのですから、混乱して当然なのに、わたしを信じてくださり、ともに支えて下さいました。

病院で1ヶ月水分だけの点滴だったにも関わらず、それを乗り越えた精神力、体力の持ち主であったこともあり、少しづつ回復してくださいました。

毎朝、毎晩、挨拶も返して下さるようになり、バースデーケーキもなめて下さいましたね。息子さんへのビデオメッセージもちゃんと理解して、はっきりとしゃべって下さいました。本当に我々の希望となってくださいました。

長期的に考えると、腸を使った方がいいということ、また、腸を使えると、内服薬、サプリメントを使えるようになることから、胃瘻をおすすめさせていただいたときも、私を信じてくださり、よく受け入れてくださいました。

あまりに経過が良すぎて、油断をしてしまいました。

いつかはこのタイミングが来てしまうことをどこかで忘れようとしていたのかもしれません。

やりようによってはもっともっと一緒に笑えたと思いますが、あまりにあっさり旅立たれてしまいました。お正月を過ぎるこのタイミングを計っておられたかのように。。

回復して奥様やご家族を喜ばせるよりも、思うようにならない身体を離れて、ある意味自由に奥様、御家族を見守ろうと覚悟を決められたようにも感じました。

確認させていただいたあと、奥様とお話しました。
奥様が風邪を引いて寝込むと、熱いお茶を入れてくださったり、奥様が外出中に雨が降ったら、玄関にタオルを準備してくれていたりと、本当に優しいご主人だったことをお聞きしました。
私たちが吸引をさせていただくたびに、ありがとうと言って下さっていました。

わたしたちの心をいつも温かくしてくださいました。

本当にありがとうございました。どうぞ私たちをしかるべき方向へお導きください。



もう一方。
その方を玄関で見送らせていただいていたとき、なにかを感じました。
いやな予感がして、スマートフォンを確認すると、訃報を届いておりました。

よくがんばられました。最期までご自分らしく過ごされました。
あまりにたくさんのことがありすぎて、ひとつひとつを振り返ることが難しいですね。
なんとか共にがんに打ち勝とうと思いましたが、自分の非力さを思い知らされるばかりでした。

学んできたこと、仮説がことごとく跳ね返されました。

一言でいうと、ほんとうに手強かったです。

結果論からいうと、いろんな統合医療を組み合わせているときが一番勢いを抑えていたと思うのですが、ゼロにすることができませんでした。最期までゼロにすることをめざし、先に進んでいかれたその行動力はさすがでした。

最期まで自分を貫かれたと思います。本当にあなたの生き様は尊敬します。

そして、やはりあなたの無念さがわたしの心を本当に締め付けます。
あなたとハグして、想いを共有したあの感触を忘れられません。

あなたと同じ想いをほかの人にさせないように、必死でがんばります。

どこかであったときに、「先生、がんばったね。ありがとう』と言ってもらえるように、あなたと再び笑顔であえるように 必死でがんばります。

もう苦しくないよ。ちゃんと想いは通じてるよ。ゆっくり休んでね。

心からご冥福を祈ります。