お見送り

本日67歳の男性をお看取りさせていただきました。あと10日で誕生日だったのですが、急に逝ってしまわれました。
6年前に脳幹部梗塞、その後、大動脈瘤解離など大病にかかられたものの、克服されお一人暮らしをしておられました。
3年程前、自分が自分でなくなるのが怖くなり、補佐人をつけることにされたようです。
その不安通り、自分が自分でなくなり、自分のことが制御できなくなってこられ、精神科を受診されます。統合失調症の診断で投薬が開始されます。
当方に紹介されたのは今年の7月。立つことも、うまくしゃべることも、意思を持っていると表すことでさえも出来ない状態でした。ご自宅で途方にくれて動けないでいるところを、ケアマネージャーさん、補佐人さんが発見し、デイサービスで利用していた施設に入居させてくださいました。
それまでも、精神科の薬でへろへろになっているのではないか。。とは周囲も思っていたようですが、なかなか薬を中止してはどうかとも言い出せず、頑張って飲ませておられたようです。
7月に紹介されて、まずは精神科の薬を中止しました。精神科の薬が開始になった理由は大声で周囲にわめき散らしていたからだったようなので、再び症状がでてきたら考えましょうと中止させていただきました。
これでだいぶ覚醒がよくなり、意思表示ができるようになったのですが、わたしがイメージしていたほどではありません。
栄養的に問題があるのではないかと血液検査をしたところ、ビタミンB不足、甲状腺ホルモン低値、MCVの増加を認めます。
B群の補充(特にB12)、甲状腺ホルモンの補充を検討しておりましたが、なかなか生きる気力がありません。まずは食欲をあげてから、、と思い、人参養栄湯を試してみましたが、味の問題もあり、内服困難です。また、最初から120から140の頻脈もあります。ワソランの内服をトライしましたが、なにぶん薬がきらいです。ぺっと吐き出してしまわれます。βブロッカーの貼付剤に切り替え、なんとかレートコントロールはできていました。
末梢点滴もなかなかとれませんでしたが、なんとか一日1000ml程度の輸液は可能でした。
それで一時期状態はあがり、自立して歩行されたり、外出されたり、自分でアイスを食べたり、、長年付き合って来たスタッフいわく、この数ヶ月、やっと甘え方がわかってきた。。とのことでした。
また、長年疎遠にしていた息子さんとも話ができ、それも「あんなに話がかみあったのは本当に久しぶりでした。ありがとうございます」と言わしめるくらい調子のよい時期もありました。
しかし、10月上旬にお身内と会われてから、急に状態が変わってしまいます。
なにがあったのかは不明ですが、それから再び食欲が低下し、2日後には脱水、不整脈で緊急搬送となりました。輸液で回復したものの、食欲、意欲が回復しませんでした。
本日お昼過ぎに呼吸苦があり、緊急往診した際は話をしてくださり、大丈夫といわれていたのに、その10時間後、話をしていてそのまま息を引き取られました。
まさにスタッフに見守られての旅立ちでした。

経過を考えると、肺塞栓症がもっとも考えられます。息子さんに解剖の提案もしましたが、もう十分生きて来たので、楽にさせてやりたいです。。とのこと。

わたしとしては、もっとやれること、やってみたいことがあったように思っています。統合失調症状に対してのナイアシン療法、MCV高値に対してのビタミンB12療法、甲状腺ホルモンも補充したら食欲が出てたんじゃないか、、レートコントロールももっと早く積極的にすべきだったのではないか、、等々。お若いし、体格もいいし、まだまだ時間的には余裕があると思っていました。けれど、お別れが来たのはあっという間でした。

ご本人にとってこの数年間では、この3ヶ月が本当に自分を取り戻せて幸せだったと思いますよ、と長年関わったかたに言って頂いても、やはりもっとやれることがあったんじゃないか、なぜもっと積極的に治療法をすすめなかったのか、、そんな後悔ばかりが先に立ってしまいます。

短い間でしたが、たくさん学ばさせて頂きました。ありがとうございました。ゆっくりお休みください。